可除群の構造定理

うーん。毎日記事を書いている人って、本当に天才ですね。

世間の人気ブロガーが毎日毎日カタカタと証明を打ち込んでいるのかと思うととても真似できないなあと思います。

 

ベタな話題というか、かなり標準的な話になってしまうのですが

あんまり可除群の構造定理の記事がないなあと思ったので、みんな知っていそうですがこの記事を書こうかなあと思いました。

 

実際「有限生成アーベル群の構造定理」で検索するとダーっと記事が出てきますが、

「可除群の構造定理」で検索してもWikipediaの記事が一番上に出てくる他は全部有限生成アーベル群の構造定理の記事です。 (完全に乗っ取られている) 

 

可除群の定義

一応定義を書いておきます。

定義

アーベル群 D可除群(divisible group)であるとは,

各元 a\in Dについて方程式 nx=aが任意の n\in \mathbb{Z}に対して解を持つときを言う.

 

可除加群の例

  •  \mathbb{Q}: これは定番です。
  •  \displaystyle \mathbb{Z}(p^{\infty})=\bigcup _{n}(1/p^n)\mathbb{Z}/\mathbb{Z}: Prüfer群と呼ばれる群です。
  •  \mathbb{Q}/\mathbb{Z}: よく出てきますが、実はこれはPrüfer群の直和  \mathbb{Q}/\mathbb{Z}=\oplus _{p}\mathbb{Z}(p^{\infty}) .
  •  \mathbb{T}=\mathbb{R}/\mathbb{Z}: これはねじれ部分とねじれなし部分の直和に分けることができます。ねじれ部分は代表元が有理数の部分つまり \mathbb{Q}/\mathbb{Z}で、ねじれのない部分は代表元が無理数の部分で実は\mathbb{Q}の直和になります。

こういう事実を含む一般的な定理があって可除群は分類されています。

可除群の構造定理

定理

可除群 D

 \displaystyle D=\mathbb{Q}^{\oplus I}\oplus \bigoplus _{p:{\rm prime}}\mathbb{Z}(p^{\infty})^{\oplus I_p}

 と分解される. 

証明のために次の事実を使います。

  • 可除であることと移入的であることは同値。
  • 移入的な部分群は直和因子である。
  • ねじれ群は p-ねじれ部分(位数がp冪の元全体)の直和に分かれる。

「移入的  \Rightarrow 可除」は任意の R-加群で正しいですが、「可除  \Rightarrow 移入的」はDedekind環上で正しい事実です。

 

定理の証明

可除群 Dのねじれ部分 tDも可除なので直和因子であり,  D=tD\oplus Eとかける.  tD=\oplus _p T_p p-ねじれ部分に分解する.

1. ねじれ部分

任意の元 a_0\in T_pに対して S_m=\{a_0, a_1, a_2, \cdots  a_m\, | \, pa_{n+1}=a_n\} \, (m=1, 2, \cdots )で生成される部分群 \langle S_m\rangleを考える. 

 a_0の位数を p^rとするとき,  S_mの和で生成される部分群  \bigcup _m \langle S_m\ranglePrüfer群  \mathbb{Z}(p^{\infty}) と同型である. 

実際  \bigcup _m \langle S_m\rangle \to \mathbb{Z}(p^{\infty})

 a_m\mapsto \overline{1/p^{r+m}}によって定めればこれは同型である. 

 T_pの部分群であって \mathbb{Z}(p^{\infty})の直和であるようなもの全体を \mathcal{S}とし,

 A\leq A' \ \Leftrightarrow \ A A'の直和因子」によって順序を定めると,

各元 a\in T_pに対して上の事実からそれを含む \mathbb{Z}(p^{\infty})と同型な部分群が存在して \mathcal{S}は空でなく, また任意の増大列 {A_i}には和集合を取ることで上界が存在するから, Zorn補題によって \mathcal{S}には極大元 Aが存在する.

ここで Aは可除群 \mathbb{Z}(p^{\infty})の直和であって可除であるからこれも直和因子.  T_p\cong A\oplus Bと表せる. 

 Bの各元 bについて bを含むような \mathbb{Z}(p^{\infty})と同型な部分群 B_0があるから,  A\oplus B_0 \mathcal{S}に含まれ,  Aの極大性から B_0=0.

 B=0でなければならない. 

こうして T_p \mathbb{Z}(p^{\infty})の直和でかける. 

2. ねじれなし部分

証明はねじれ部分と類似である.  Eの各元 a_0について,

 nx=a_0は任意の n\in \mathbb{N}で解を持つ. また Eがねじれを持たないから解 xは一意に決まるから,  E\to \mathbb{Q}; \ x\mapsto 1/nはwell-definedであって, しかも同型であることが確かめられる.

上と同じように Eの部分群であって \mathbb{Q}の直和であるようなもの全体を \mathcal{S}とし,

 A\leq A' \ \Leftrightarrow \ A A'の直和因子」によって順序を定めると, その極大元は Eと一致する. 

  \square 

 

あともう少しだけ。

さらにこの直和の濃度がそれぞれ一意的であることも示すことができます。これはベクトル空間の次元の一意性と同じ証明です。

実際この直和の濃度を独立集合(independent set)の濃度と考えることができるからです。

 

定義

アーベル群 Aの部分集合 \{x_i\}_{i\in I}が独立集合であるとは, 任意の m個の元の線形結合について

 \displaystyle \sum _{k=1}^{m} n_kx_k=0 \ \ \Leftrightarrow \ \ n_k=0 \ for \, all \ 1\leq k\leq m

を満たすことを言う. 

 

ねじれなし元からなる独立集合のうちで極大なものの濃度は、前回の記事で書いたねじれランクと呼ばれます。一般に極大な独立集合の濃度をアーベル群のランクと言います。

 

この記事はまた編集するかもしれないので、一応暫定版ということにします。

 

 実は可除群の構造定理の証明をちゃんと読んだことがなかったのでブログはいい機会になります。皆さんもぜひブログを書いてみてください。(これ誰に言っているのか分からないけど)

 

参考文献は例によってFuchsです。

Abelian Groups (Springer Monographs in Mathematics)

Abelian Groups (Springer Monographs in Mathematics)