ランク1のねじれなし加群の分類
最近はアーベル群の本を読むのが楽しいし、疲れた時にアーベル群の記事を書くようなブログにしようと思います。
というか最近よくない気持ちでこういう本を買いました。
Abelian Groups (Springer Monographs in Mathematics)
- 作者: László Fuchs
- 出版社/メーカー: Springer
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログを見る
値段はこんな感じですね。
節約生活をします。
さて、アーベル群についてのことを最初に調べたのは半年ほど前ですが、そこでわりと心がひかれたのはねじれなし加群(torsion-free module)だと思います。
(注: ここで加群とは加群のことを指します。だからすべてのねじれなし加群は平坦加群。やったぜ。)
というかねじれなし加群の例なんてそのときはとその直和とくらいしか知らなかったので、分類と言われてもそんなにピンと来ませんでしたが、実際に分類をしてみると「確かに」という気持ちになりますね。
細かいことは後回しにして、まず
がランク1のねじれなし加群
だと思うことができます。
まずはや以外の例を挙げてみましょう。
例えば ]
これは多項式環の不定元にを代入したものですが、その元を通分してもっと明示的に書くとということになります。1がで無限回割れるような群ということですね。これは確かにねじれなし加群です。
じゃあ、有限回割れるものとかそういうのは?という気持ちになりますが、
たとえば1がで2回だけ割れるような群 を考えてみると
は同型射なので、残念ながらこれはただのですね。残念。
とするとほかに脳死状態で思いつくのは
]] とか ] とか、まあこういうやつらもねじれなし加群です。
あとは各素数で無限回割れるか割れないかみたいな感じの群くらい。なんかあんまなくね?という気がしてくるわけですが、
よく考えるともう少しありそうな気もしてくるわけです。
有限回割れるものを除いたけど、有限回割れる素数が無限個とかあればそれなりに何らかができるのでは?
たとえば1がすべての素数 で1回ずつ割れるような群とが
さっきみたいに同型になるかというと、うまく同型射が作れないので違う群かもしれないという風に思えてきます。
そう考えると、なんかいろいろあるのではないかという気もしてくるわけです...... 。
あっ、この記事は がちゃんと仕事をするかどうかのテストのつもりで書いています。
いや、さっそく仕事してます。いいロゴです。
Abel群のランク
せっかくなのでもう少し書きます。そもそもAbel群のランクという言葉ってどれくらい普及しているんでしょうか。僕はずっと有限生成Abel群のの右肩に乗っている数くらいに思っていたし、は無限生成だからランクは無限、と思っていました。
でもここでいうランクはそういう定義ではなく、ねじれなしランクと呼ばれるものです。これで言うとのランクは1です。
定義
ねじれなし加群の(ねじれなし)ランクとは のことである。
注: これだとねじれなし加群専用の定義ですが、「上独立な部分集合のうち極大なものの個数」という風な同値な定義をすれば、ねじれがあっても定義できます。
(たとえばそういう風に定義するときは、一般にねじれのある加群に対して「極大な独立集合のうちでねじれのない部分の濃度」というのがねじれなしランクのことです。)
特徴付け
がねじれなし加群であることの特徴付けとして、
「任意の に対して がいつも単射」
というものがあります。
つまりねじれなし加群は必ずを含みます。
がねじれなし加群であることの特徴付けとして、
というものがあります。をテンソルしたときに消える部分はちょうどねじれ部分と一致しているのでこうなりますね。つまりランク1のねじれなし加群はの部分群です。
さらにの部分群は必ずねじれがありません。つまり
ということになります。
指標(characteristic)
ここで指標というものを導入してみます。指標群の指標とは違います。
まずの -高さとはという方程式がに解を持つようなの最大値のことです。
最大値がないときは高さと定めます。
で、これをダーっと並べます。
この列を指標と呼びます。
これを使ってランク1のねじれなし加群を分類していきます。
ここで指標は各元に対して定まっているものですが、
がランク1のねじれなし加群の場合を含むのでとくに1という元があり、
さらににも埋め込まれるので、1がpで何回割れるかさえ分かってしまえば他の元がで何回割れるかというのは全部わかってしまいます。
つまり, のみを考えればの任意の元の指標を考えられるので、これだけを考えて分類することにしましょう。ランク1の場合に限り、をの指標と呼ぶことにします。
具体的な指標を見てみましょう。指標は 2, 3, 5, 7 ...と並べていくことにします。
- の指標は
- ] の指標は
- ] の指標は
- の指標は
- の指標は
型(type)
2つの指標が与えられたとき、それらの指標を持つランク1のねじれなし加群が同型になるのはどのようなときでしょうか。指標の全体をうまく同値関係で割っていきたい気持ちが生えます。
今挙げた例の中でと は同型でした。
だから
つまり各項の差が有限だったら同値という風に定めたいわけですが、
さっき例を考えたときに何やらほかにもありそうな気がしたわけでした。
次のような群を考えてみます。
1は各素数で1回ずつ割れます。つまり指標は
しかし、こういう群はと同型ではありません。(同型射があるとすると1に送られるようなの元があるから、任意のに対して
という方程式がで解を持つことになってしまいます。)
こういうのをうまく加味して次のような同値関係を考えます。
定義
2つの指標とについて、
有限個の項だけが異なり、しかもその差が有限であるとき
同値であると定義する。
この同値類を型と言います。
おわり。
分類が終わりました。
まず、
命題
2つのランク1ねじれなし加群が同型 2つの群の型が一致する。
適当な証明
()
ランク1のねじれなし加群を標準的にの部分群だと考えることにする.
ランク1のねじれなし加群の間の射は1の送り先を決めることで完全に決定されることに注意する. 実際, ランク1ねじれなし加群の間の射で
1がに送られるなら, は を満たすに送られるが, にねじれ元がないからこのような方程式の解は存在すればuniqueである.
2つのランク1ねじれなし加群が同型でその間の射は で与えられるとすると全単射性から
がで解を持つ がで解を持つ
ということが確かめられる.
つまり(における指標をそれぞれ と書くとき)
である. の指標との指標の差はの素因子の分しかなく, 有限項の有限の差しかない。
よって .
()
上でやったことを逆にたどればよい.
ならその差 を与える素数は有限個だからそれを とする.
またその差は有限だから, その差をそれぞれとする.
は同型を与える. (確かめたらわかる)
次の主張で分類は決着が付きます。
命題
任意の指標について、その指標を実現するようなランク1のねじれなし加群が存在する。
証明
指標が与えられたとき, (素数に対応する項をと書くことにする.)
の部分集合で次のようなものをとる:
で上生成される群はを含み,
の指標がもとのものと一致することも確かめられる.
最初に例を並べたときは何やら複雑なのかと思ってしまいますが、ちゃんと考えると大したことはなかったという感じですね。
こういうしょーもない話題をしょーもあるかのように書けるのはブログの素晴らしいところだと思います。
ランク2
一方でランク2になった瞬間に分類問題は未解決で、よくわからない例がたくさんあります。一瞬ランク1の群の直和に書けるのではないか?と思ってしまいますが、そんなことはありません。
「有限ランクのねじれなし加群の直和分解について」という題の本もありますし、読んでいきたいですね。